チューリップ・バブル 人間を狂わせた花の物語

  • 著者: マイク ダッシュ (著), Mike Dash (原著), 明石 三世 (翻訳)
  • 出版社: 文藝春秋
  • サイズ: 文庫
  • ページ数: 318p
  • 発行年月: 2000/06
  • 定価: 840円

Carolus Clusius by Martin Rota

Martin Rota (1575) クルシウス In Wikimedia Commons

チューリップのオランダへの伝播と、チューリップ・バブルも八十年戦争時代の出来事です。本格的にオランダで新種が開発されるようになったのが、植物学の権威クルシウスがレイデン大学に招聘された1593年からとするなら、異常なまでに高値となった取引価格が突如暴落した1637年2月までがチューリップの黄金時代といえると思います。が、このような「投機」が一般の市民にまで可能になったのも、間接的にではありますが、戦争とそれによる富の集積が無関係ではありません。

ところで、これらの本の中には、「チューリップをたまねぎと間違えて食べた」というフレーズがたくさん出てきます(笑)。食べられないことはないですが、苦くてあまりおいしいものではないようです。

読書メモ

久しぶりに心から面白いと思った本。学生時代だったら面白いと思えなかったかもしれません。リーマン・ショック以後の今でこそ読みたい本ですが、現在絶版なのが残念です。

といって経済の本かと思いきや、歴史の本としても非常にレベルが高いです。それもそのはずで、著者はロンドン大学で博士号をとった元歴史学者。おそらくこのテーマを扱ったものの中では現在最も詳しいのではないでしょうか。一次史料を用いた裏づけのある議論で構成されています。逆に、あまり資料を活用していないと思われるオスマントルコに関する部分は、蛇足と感じてしまう感も否めません。それはそれで単純に興味深くはあるのですが。

ちなみに、投機の話ですから当然数字はたくさん出てくるのですが、年収をひとつの価値基準としています。職人の年収がこれくらいだから球根1個がその何倍になる、のような書き方です。ちょうど現在日本の年収価値と比べて、1ギルダー=1万円強換算で考えると分かりやすいです。すると、球根1個に4000ギルダーというのが、どれぐらい凄まじい金額であるか、よりわかりやすく感じられると思います。 このサイト本館の『17世紀の通貨価値』で詳しく紹介しています。

ところで邦題は『チューリップ・バブル』ですが、同じ現象を指して、欧米では「tulipmania」といいます。原題も『Tulipomania』です。「マニア」は日本語だと「ファン、愛好家」の意味合いが強いので、この邦題はうまく訳してあると思います。本文中には、この和製英語の意味での「マニア」、投機にはまったく興味のない純粋なチューリップ愛好家に言及されている部分も多いのですが、中でもその先駆けともいえるクルシウスの話がいちばん面白かったです。


~Further Reading~

チューリップ・ブック―イスラームからオランダへ、人々を魅了した花の文化史

  • 著者: 国重 正昭 (著), ウィルフリッド ブラント (著), ヤマンラール水野 美奈子 (著), 小林 頼子 (著), 南日 育子 (翻訳), 中島 恵 (翻訳)
  • 出版社: 八坂書房
  • サイズ: 単行本
  • ページ数: 277p
  • 発行年月: 2002/02
  • 定価: 2940円

読書メモ

チューリップを園芸と美術史からとらえて編集してあるニッチな本。カラー版も多数。ブラントの著作の翻訳や「正直者と愚か者の対話」の邦訳なども含み、「内容情報」にもあるように資料性も高いです。『チューリップ・バブル』よりも敷居が低いので、入門書としてはこちらのほうが良いと思います。