オスプレイ社 八十年戦争のオランダ軍(洋書)

過去にRobertsによる2冊があったため、敢えてまんまのタイトルでは出ないと思っていた八十年戦争もの。この時代のシリーズはハプスブルク側に偏っていたので、そのカウンターパーツとしての出版でしょうか? Robertsも含め、オランダ関連をまとめてご紹介。

Dutch Armies of the 80 Years’ War, 1568-1648 (1): Infantry

  • 著者: Bouko de Groot
  • 新書: 48ページ
  • 出版社: Osprey Pub Co
  • 発行年月: 2017/3/14

読書メモ

アマゾンレビューでは「本文は既出のコピペ並」との批判でけっこうボロクソでしたが、オスプレイしかもMAAシリーズに求めるには充分すぎる内容かと思います。オスプレイは別に新説発表の場でもないですし、短いページに必要な知識がコンパクトにまとまっています。そして図版の中には、このサイト内にも即反映させよう!と思えるような初出の小ネタがいくつもありました。何よりオランダ人かつ軍務経験者による著作は、オスプレイのこの時代ものの中でも初だと思います。オランダ語とドイツ語の原典にあたっているので、むしろそこらの英語の焼き直しよりも信頼感はあります。

この本の中でいちばんありがたかったのは、八十年戦争期間の各州(あるいは各国)歩兵連隊の連隊長リスト! こんなもの余所で見たこと無いです。しかも続刊では騎兵・砲兵連隊長リストもあるとのことで期待大。 ほかには、八十年戦争期間中の戦いに1-125まで付番され、それが地図上にプロットされています。これも「バトルとスカーミッシュの区別もされず意味がない」とレビューされてましたが、一目で傾向のわかる面白い試みだと思うんですけれどね。

リストも地図も、オタクが地道にチクチク作っていたものを気前よく一般公開してくれた感があります。 人物の肖像画や挿画のチョイスが若干センス無いこと以外は、非常に良いムックだと思います。

Dutch Armies of the 80 Years’ War 1568–1648 (2): Cavalry, Artillery & Engineers

  • 著者: Bouko de Groot
  • 新書: 48ページ
  • 出版社: Osprey Pub Co
  • 発行年月: 2017/9/21

読書メモ

同著者による第二弾。発売日より少し早めに届きました。 まずは騎兵・砲兵連隊長リスト~!と思っていたらありませんでした…。これはものすごく残念…。

1冊めは概要と歩兵について、この2冊めは騎兵・砲兵・攻囲技術を中心に、1冊めに書かれなかった諸々と結論となっています。隊形の変化や行軍時の展開に重点が置かれているのと、他にあまりないところでは、架橋(舟橋)や盾・地雷などの小道具にも触れられています。

相変わらず本文中あちこちに散っている小ネタはおいしい。「将校は軍装で銘々好きなようにスタイリッシュさと富を競ったが、マウリッツだけは例外で、いつも黒しか着てなかった」なんて記述を見ると(もっともこれも既出っちゃ既出ですが)、読み進めるのが楽しくなります。

こちらの地図は、1冊めと違って攻囲戦に限ってプロットしてあります。なので、八十年戦争の戦闘地図にもかかわらず、ニーウポールトが無いというレアな代物。用途で使い分けると良いでしょうね。

Nieuwpoort 1600: The First Modern Battle

  • 著者: Bouko De Groot (著), Peter Bull (イラスト)
  • 新書: 96ページ
  • 出版社: Osprey Pub Co
  • 発行年月: 2019/9/17

読書メモ

Campaignシリーズからも同じ作者・イラストレーターのペアから。当初、ニーウポールトの戦いに合わせて7月2日出版予定だったのが、2か月半延びて9月半ばの発売になりました。ひとつの戦いに焦点を当てて尚且つMen-at-Armsシリーズの実に2倍量のページ。ニーウポールトの戦いを書いた英語の本では文句なしにいちばん情報量が多いのではないでしょうか。(さすがに蘭語だともっと長いのありますが)。

予約時のサブタイトルは、「砂丘上の戦い」。フタを開けてみたら、「最初の近代戦」。大きく出ました。確かに、八十年戦争と三十年戦争を比べると、野戦の数は明らかに違います。三十年戦争は、有名な野戦だけでも軽く2桁は越えますが、八十年戦争の戦闘は85%が攻囲戦、しかも野戦は軍制改革前のウィレム時代のほうが多く、改革後は大抵局所的なスカーミッシュや奇襲・ゲリラ戦などに留まります。「会戦」といえるようなものになると、改革後はこのニーウポールトの戦いが唯一で、この後ウェストファリア条約までの半世紀(間に12年の休戦を挟むにしろ)の会戦は、完全に三十年戦争の独壇場となります。

現物は、写真と違って印刷版も表紙はKindle版と同じものでした。いやホント、この人マニアですね(笑)。『歩兵』でもかなり気前よく地図やらリストやら出してくれていましたが、今回が真打です! どちらかというとエピソード的なものは少なく、とにかくデータと事実の羅列。もちろん前半こそ軍制改革の話やらですが、後ろ半分は完全に「その日」の話。小説ではないので盛り上がりには欠けますが、非常に重宝します。また、「ニーウポールトの戦い」だけではなく、その前後の「ニーウポールト攻囲戦」(戦いの後も意外と3週間くらい現地に残っている)として書かれているのもあまりない傾向です。

オスプレイは図版が多いのでぱらぱら眺めるのにはとても良いのですが、この本のように本文をじっくり読みたい場合は逆に図版が邪魔なので、もしかしたら電子書籍も買ってしまうかも。

  • 著者: Bouko De Groot (著), Peter Bull (イラスト)
  • 新書: 48ページ
  • 出版社: Osprey Pub Co
  • 発行年月: 2018/10/23

読書メモ

Armiesと同じ著者が、まさかの海軍まで書いてくれました。MAAシリーズではなくなぜかVanguardシリーズになっているので、表紙には若干統一感ないですが、ページ数(ボリューム)や基本の考え方(年表や地図プロット)は同じなので、読みやすくなっています。しかし、陸海同じ人が書く…ってけっこう大変だと思うのですが、オスプレイにコミットしているオランダ人著者ってあまりいないんですかねえ。

実はオランダの海軍の黄金時代は、八十年戦争中ではなく、八十年戦争直後の英蘭戦争期になります。トロンプ提督とかデ・ロイテル提督とかですね。なので、17世紀後半のオランダ海軍に関する資料はけっこうあるんですが、八十年戦争中の海軍って、反乱初期のいわゆる「海乞食」が少しと、それ以降はオランダ外で戦っていることも多いことも手伝って、断片的にいくつかの戦闘のみスポットが当てられる感があり、まとめたものって少ないかも…。その意味では貴重な48ページです。

Pike and Shot Tactics 1590-1660

  • 著者: Keith Roberts
  • 新書: 64ページ
  • 出版社: Osprey Pub Co
  • 発行年月: 2010/3/23

読書メモ

Eliteシリーズ。MAAシリーズよりページ数がやや多く、特定のトピックスを掘り下げた内容になっています。タイトルどおり「戦術」、とくにこの場合は隊形・フォーメーションに特化しています。

オランダの軍制改革、スペインのフランドル方面軍との比較、三十年戦争のスウェーデン軍での進化を経て、最後に真打としてイングランド内戦が登場。作者はイングランド内戦の専門家のイギリス人なので、イングランドに寄った内容になっているのはご愛敬。それでも、レスター伯時代と比較して、オランダ軍制改革の真っただ中にいた英軍司令官フランシス・ヴィアーをイングランド人先駆者ととらえ、その部下たちの書き記した記録をもとに数字で示す手法には説得力があります。

ところどころのフォーメーション図はおそらく作者が鉛筆かなにかで書いたもの。1590-1660となっていますが、スウェーデン軍とイングランド王党派軍に焦点が当ててあるので、1630-40年代のボリュームが多いです。カラー挿絵はすべて、その時代の特定の野戦のオーダーになっています。

惜しむらくは、この本全体のリファレンスが無いこと。図版についても出典をぼかしてある印象を受けます。本文中には触れられていることもあるのですが。とくに、三十年戦争期のオランダ戦術の伝播について、リアルタイムの出版事情が取り上げられている箇所は要付箋項目です。

Matchlock Musketeer: 1588-1688

  • 著者: Keith Roberts
  • 新書: 64ページ
  • 出版社: Osprey Pub Co
  • 発行年月: 2002/2/25

読書メモ

Warriorシリーズ。「Pike and Shot」と同一作者による一昔前のもの。こちらのほうが広く浅くなので、基本を押さえるのに向いています。「Pike and Shot」にはない、軍隊運営や攻囲戦の項目もあります。

相変わらず図版の出所はあやしいものの、こちらはリファレンスもがっつり1ページあり。ただし、英語由来の二次資料しかここには挙げてありません(本文中には一次資料についても言及されていますが)。

徴兵・費用・給与など、具体的な数字が出ているのもうれしい。軍服の価格や、イングランド軍の給与の変遷図などもあります。中央カラーは、オスプレイによくある図鑑的なもののほかに、スナップショット的な兵士生活の一コマを切り取った風のものもあります。