雑誌 歴史群像

まさか日本で市販されている商業雑誌に、オランダ史がらみの記事が載っているとは知りませんでした。情報いただきありがとうございました。 八十年戦争時代のオランダが含まれている記事3本をご紹介します。

いずれも細かい部分については突っ込みたいところ(「オランダ独立戦争」とか「独立宣言」という表記はそろそろやめてほしいな…とか)は多々ありますが、英語文献・翻訳文献にあたっており、その水準は専門誌を掲げるだけあります。「スペイン街道」の地図を日本語で載せているのもめずらしいのではないでしょうか。

歴史群像 2007年 02月号

  • 出版社: 学習研究社 隔月刊版
  • サイズ: 雑誌 隔月刊版
  • 発行年月: 2007年1月6日
  • 定価: 1000円

【記事】

[戦史の名画を読む]巨匠ベラスケスが描く敗者への”寛容” ブレダの開城

読書メモ

「ブレダ攻囲戦(1624-25)」『ブレダの開城』についての記事がカラーで6p。 といっても、八十年戦争の前半の通史に1/3、三十年戦争初期の通史に1/3、十二年休戦条約明けからブレダ攻囲戦とその後に1/3といったボリュームです。参考文献もスペイン関連がピックアップされているので、比較的スペイン側からの視点となっています。(『ブレダの開城』だから当然といえば当然ですが)。

スペイン街道やプファルツ侵攻とからめて、休戦明け後の八十年戦争を語っているあたり、通り一遍の通史よりもよりインターナショナルでわかりやすく書かれています。欲をいうなら、軍制改革が本当にさらっとしか書かれていないため、マイナーなこの時代の攻囲戦のイメージがわきにくい部分を詰めてほしかったでしょうか。

補足。最終ページに載っている地図は、1649年または1651年のブラウの地図と思われます。地図内にフレデリク=ヘンドリクの紋章が描かれているので、1637年以降、ブレダ男爵位がナッサウ家に回復されて以降のものなのは確実です。

歴史群像 2009年 06月号

  • 出版社: 学習研究社 隔月刊版
  • サイズ: 雑誌 隔月刊版
  • 発行年月: 2009年5月7日
  • 定価: 980円

【記事】

マウリッツ軍制改革の結実 ニューポールトの戦い

読書メモ

「ニーウポールトの戦い」(の英語読み)についての記事が8p。オーダー図も載ってます。 このオーダー図、 別掲の当時の版画図2枚と比較して、著者自身が若干自信なく載せているようですが(「明確な史料が残されていないため様々な解釈があるようだ」と但し書きがしてあります)、どちらかといえば時間経過によって様々なフェーズのものが存在しているので、どこをとったかということになるでしょうか。戦闘の経緯は、大枠でざっくり書いてあるのでわかりやすいです。直近で邦訳の発売された『戦闘技術の歴史 近世編』はもっと詳細に書いてあるので、先にこの記事で概要をつかんでから読むとわかりやすいでしょう。

また、軍制改革でも「ドリル(反復訓練)」や将校の役割などを紹介し、それが実際の野戦にどう機能したかという流れで説明してあり、説得力のある流れになっています。

歴史群像 2012年 06月号

  • 出版社: 学習研究社 隔月刊版
  • サイズ: 雑誌 隔月刊版
  • 発行年月: 2012年5月7日
  • 定価: 980円

【記事】

【西洋戦史研究】市民兵誕生に至る道のり 「軍事革命」の時代

読書メモ

ジェフリー・パーカーの軍事革命(日本語だと『長篠合戦の世界史 ヨーロッパ軍事革命の衝撃 1500~1800年』)をわかりやすくまとめた記事、というのが最初の印象。この本自体はやや難解なため、ここまで噛み砕いて説明してあるのがとても親切です。近世の軍制の変遷について非常にわかりやすくまとめてあります。 ちょっと厳しい言い方をすれば、パーカーの初版が1988年、その後すぐに「軍事革命論」への批判を含むたくさんの議論がおこなわれており、パーカーだけに準拠するのは既に古い見方かと思います。もちろん参考文献はそれ以降のものも挙げられていますが、この記事内では、タイトルそのものも含めてあまり新しい内容は見えてきません。

ただここに挙げられている「火力」の定義はとても良いと思います。物理的な殺傷力のみを指すのではなく、衝撃や恐怖心を与える「手段」を含んだ総合力、という定義です。もっとも、大砲を対人で使用し始めたのもこの時代からなので、殺傷力そのものも大きいことを踏まえてのことです。 相変わらず「ニーウポールトの戦い」の図もありますよ。ちょい大きめ(どこに誰が居る、というのが辛うじて読めるくらい)なのでこれ目当てに買ってしまった。