オランダ独立史
フリードリヒ・シラーの著作から、三十年戦争関連を2件。「シルレル」はシラーのことです。日本語訳は昭和20年前後の旧訳なので、漢字は旧字体・地名等も漢字表記が多く、現代日本人としては非常に読みにくいです。そのため英語訳版も挙げてあります。場合によっては英語のほうが読みやすいかも。
フリードリッヒ・シラー (著) 丸山 武夫 (翻訳)
オランダ独立史〈上巻〉 (1949年) (岩波文庫)<上>- 文庫: 231ページ
- 出版社: 岩波書店
- 発売日: 1949/08(リクエスト復刊: 1996/10)
- 定価: 620円
- 文庫: 290ページ
- 出版社: 岩波書店
- 発売日: 1950/12(リクエスト復刊: 1996/10)
- 定価: 720円
読書メモ
昭和22年の出版なので、文章は旧字体です(リクエスト復刊時もそのまま)。でも2ページも読めば、読みにくさはあまり気にならなくなります。日本語タイトルは「オランダ独立史」ですが、本編で扱っているのはパルマ公妃マルガレータとアルバ公の執政交代、1567年まで。つまり、八十年戦争の始まりである1568年の「前」までとなります。原題も「反乱史」ですが、厳密な意味では本格的な「反乱」の前でもあります。
相変わらず管理人は「前半」には弱いため、実際、興味を持って読めるのは上巻より下巻、しかも本論ではなく追補の二項だったりします。とくにアントウェルペン包囲戦では、パルマ公はもちろん、モンドラゴン将軍や、ユスティヌス、ホーエンローエ伯など良く知った名前がぞろぞろ出てきて思わずほっとしてしまいます。追補は、本編直後の時期の「エグモント伯およびホルネ伯の裁判と処刑」(1568年)、もう一編は、ちょっと時間が空いて、「アントウェルペン包囲攻撃」(1585年)です。アントウェルペンだけは、視点がスペイン側に逆転し、パルマ公が主人公となっています。
物語の書き口は、「著者の為人があまり露骨にですぎる、全体に史書というには文学的すぎる、ものの見方が不公平で主観がかちすぎる(この点はシラーも自認していた)」(上巻はしがきp.6)とありますが、それこそまさにロマン主義。戦後まもなくの時代には鼻についた部分かもしれませんが、現代ならむしろ受け入れやすい書き口だと思います。
The Revolt of the Netherlands
こちら英訳バージョン。 ここでは絵面の良いものを挙げましたが、PDなので電子書籍・WEBともに無償のものもたくさん出ています。三十年戦史(第一部・第二部)
- 著者: シルレル (著), 渡辺 格司 (翻訳)
- 出版社: 岩波書店
- 発行年月: 1943年12月20日~1944年5月30日
- 定価: 778円、842円(1988年復刻版価格)
読書メモ
一章は前史から始まり、宗教をテーマにした論述が続くので、若干入りにくいかもしれません。一章後半から通史になるので、だいぶ読みやすくなってきます。
訳者含め、この作品を「文学」とみる見方もありますが、管理人は純粋な歴史叙述だと思います。そもそもがシラーが大学で講義する際に用いたテキストが出自というのもあり、最初に英訳を読んだからというのもあるからかもしれません。日本語訳は、昭和の(現代からみれば多分に文語的な)記述というのも相まって、かなり文学的な記述となっています。
確かにグスタフ=アドルフやヴァレンシュタインを扱った箇所は、不自然なほどにボリュームが割かれているうえに台詞の引用も多用され、歴史書としては抑揚に富んでいる感はあります。が、ロマン主義時代の歴史記述にはありがちな特徴でもあり、「お話」や「物語」とは程遠いものです。むしろウェッジウッドの『ドイツ三十年戦争』のほうが叙情的・「ロマン主義的」に思えます。 また、これも訳者含め、五章は「この後の歴史はシラーの興味をひかず」などとオマケ扱いのように評されていますが、これも「物語」を期待する向きからした感想と思います。
プラハ条約以降の三十年戦争は、ドイツ国内の諸勢力というよりもドイツ対外国の色合いが強くなってきて、個別の会戦や個々の将軍たちの重要性も減じてくるため、人物や戦闘そのものの記述が少なくなるのは何ら不思議ではありません。ウェストファリア条約の内容や「その後」にまで言及のない当作では、一章や二章前半と同様、五章単体で必要充分量でありかつ密度も濃く、むしろ中間部のグスタフ=アドルフやヴァレンシュタインがらみの記述が冗長すぎるともいえます。
ところで、所有しているのは第3版なんですが、第二部のカバー見返しにとんでもない誤植を発見! 「勇猛果敢なスウェーデン王グスタフ・アーノルド率いる新教徒軍は…」 ……誰!?