近代世界システム 1600~1750―重商主義と「ヨーロッパ世界経済」の凝集
- 著者: I. ウォーラーステイン (著), 川北 稔 (翻訳)
- 出版社: 名古屋大学出版会 (1993/06)
- サイズ: 単行本
- ページ数: 428p
- 発行年月: 1993/06
- 定価: 5040円
読書メモ
同じ訳者による「近代世界システム」という名の邦訳は4冊あるのですが、原書は全3巻です。第1巻にあたるものが2分冊になっており、かつ出版社が違っているので、購入の際にはサブタイトルなどよくご確認を。
ここでは当サイトのカバーする期間にあたる、第2巻を挙げました。それぞれの巻はそれ単体で読むことができます。
- 第1巻 近代世界システム〈1〉―農業資本主義と「ヨーロッパ世界経済」の成立
- 第1巻 近代世界システム〈2〉―農業資本主義と「ヨーロッパ世界経済」の成立
- 第2巻 近代世界システム 1600~1750―重商主義と「ヨーロッパ世界経済」の凝集
- 第3巻 近代世界システム 1730~1840s―大西洋革命の時代
新装版について追記
2013年10月、第4巻(1789~1914―中道自由主義の勝利)が発売されたのを契機に、過去の巻もすべて(以前岩波書店刊だった1巻2分冊も含め)名古屋大学出版会から新装版として再販されました。装丁も統一されたものに変更されています。画像はこの記事で取り上げている2巻の新装版です。もくじ
- 序 章 「17世紀の危機」 は実在したか?
- 第1章 収縮 (B) 局面
- 第2章 「世界経済」 におけるオランダのヘゲモニー
- 第3章 中核における抗争 —— 第一の局面 1651年から1689年まで
- 第4章 低成長期における辺境諸地域
- 第5章 岐路に立つ半辺境
- 第6章 中核地域における抗争 —— 第二の局面 1689年から1763年まで
「17世紀の危機って何?」という人や、論文の手法(先行研究等を挙げて問題点を洗い出す方法など)に慣れていない人には、序章からいきなり読むのはおすすめしません。各論興味のあるところから読んだほうがまだ良いでしょう。基本的には経済史の話になるので、経済史の簡単な概説を知っているか、または学生よりも社会人のほうが取っつきやすいかもしれません。
何よりも注釈の量が尋常ではなく、たとえば第2章の中にも、本文30pほどなのに対して197もの注釈(単なる文献の表示ではなく補足説明的なもの)が含まれています。この注釈のおかげもあり本文自体はコンパクトに書かれていますが、逆に読者に相応の知識を求めるものであるともいえます。
この第2巻になって出てくるのが「ヘゲモニー」という概念。 ヘゲモニーは日本語では「覇権」と訳されることもありますが、書内ではこのように定義してあります。
「世界経済」のなかで、突出した生産能力を誇り、生産・流通・金融の三側面すべてにおいて、圧倒的優位に立ったために、他のいかなる国においても競争に勝利しうる状態になった国のことである。 (川北稔 368p)
「第2章「世界経済」におけるオランダのヘゲモニー」では、17世紀オランダのヘゲモニー論について書かれています。ウォーラーステインによれば、「ヘゲモニー国家」といえる国は、世界史上オランダ、イギリス、アメリカの3ヶ国のみであり、オランダに関しては疑問符をつける研究者も多いと指摘されています。
~Further Reading~
知の教科書ウォーラーステイン (講談社選書メチエ)
- 著者: 川北 稔 (編集)
- 出版社: 講談社選書メチエ
- サイズ: 単行本
- ページ数: 237p
- 発行年月: 2001/09
- 定価: 1575円
読書メモ
訳者編集による入門書。いきなり訳本にあたるのに骨が折れる場合はこちらをどうぞ。逆に、訳本を読んでからこちらを読んでみると、重要な部分だけキレイにまとめてあったりするので、理解が深まります。
正直、「ウォーラーステインさんて何者」って人物紹介部分は蛇足な気もしますが、川北氏による「ウォーラーステインのキーワード」の重要語句解説はほんとうに分かりやすい。ただ訳書時点で敢えて、「周辺」「半周辺」という用語を使う人もいるけど「辺境」「半辺境」の用語をを使います、と宣言していたのが、ここではしれっと「周辺」「半周辺」に変わっています。なので2冊同時に読むときはご注意。
「三次元で読むウォーラーステイン」は、各研究者たちによる論文(というにはかなり平易なのでエッセイや訳書のまとめに近いかも)なので、とくに学部生がレポートへの「応用」のしかたを学ぶのにも良いかもしれませんね。
もくじ
- プロローグ ウォーラーステインと現代世界
- 生い立ちと思想(山下範久)
- ウォーラーステインのキーワード
- 三次元で読むウォーラーステイン
- イギリス風朝食の成立―庶民生活史のためのウォーラーステイン(川北稔)
- オランダのヘゲモニー(玉木俊明)
- 世界システムと帝国主義論(平田雅博)
- アパルトヘイトとウォーラーステイン(堀内隆行)
- アジアからみた世界システム論―インド洋世界をめぐって(脇村孝平)
- 現代日本とウォーラーステイン(山下範久)
- 作品解説
- エピローグ ウォーラーステインの魅力