オランイェ公ウィレムの伝記(英語版)

Kindleで無償または安価で読めるものをいくつかダウンロードしたうちのものたち。ほかでもパブリックドメイン版が探せると思います。

日本語で読めるオランイェ公ウィレムの伝記はウェッジウッドの『オラニエ公ウィレム』がありますが、著者・訳者ともに若干癖があったり、枝葉末節が多くシンプルな理解がしづらいこともあって、一般には(価格も含めて)読みにくいため、その代わりになるものです。

どちらも英語ですが読みやすく、おそらく前者は小中学生向けの偉人伝として書かれたもの。後者はそのロングバージョン的な位置づけの中高生向けのようなので、順番としてはこの順に読むと良いと思います。書かれた時代は大体同じ、著者同士に特段の関係性はないと思いますが、いずれも2013年に同じ出版社からKindle化されています。それぞれ挿絵が若干入っているため、PDなのに99円という価格設定は、その料金かと思います。

The Story of William of Orange

  • Ottokar Schup (著), George Upton (翻訳)
  • ページ数: 75p
  • 発行年月: 1906年

読書メモ

述べ2時間程度で読める短いバージョン。もともとドイツ語のものを英語に訳したからというのもあり、非常に平易な表現で読みやすいです。ウィレム一世の生涯を簡単に知るにはとても良い本。 …といいたかったのですが、いかんせんバランスが悪いかな…。半分読み進めたところでようやくアルバ公が登場し、ウィレムの若い頃に重点が置かれすぎているきらいがあります。当然、ウィレムは「反乱」以前の若い頃は、一介の貴族に過ぎず、前半部はウィレムの伝記というより、当時の時代情勢とフェリペ二世について書かれているといっていいと思います。

個人的には1572年以降、オランダ帰国後のウィレムの政治的なやりとりがウィレムの伝記の肝と思っているのですが、ローティーン向けということもあってか、そこがいちばん流されてしまっている気がします。逆に最後の暗殺前後のシーンについてはやや長めに取ってありますね。 それでも概説としては申し分ありません。

そして実はこの本のいちばんおススメできる部分は、『ユトレヒト同盟』や、ウィレムの『弁明』について、適度な分量で要約してあること。この部分だけ日本語に訳出しておくと使えます。

The Netherlands

  • Mary Macgregor (著)
  • ページ数: 261p
  • 発行年月: 1907年

読書メモ

かなりざっくりしたタイトルながら、いちおうこれもウィレム一世の伝記。伝記というより、ウィレムを主体としてみた反乱史、といったほうがいいかも。そういった意味では、オランダとウィレムを同一視したようなこのタイトルも有りかもしれません。

反乱史が、1555年のカール五世の退位から始まるのは通例ともいえますが、割とここから偶像破壊運動の始まるまでの10年間は端折られてしまう感があります。この本では、エグモント伯やコリニー提督の活躍したサン=カンタンの戦いをけっこう長々と書いていたり、意外と序盤にも重点が置かれています。

冒頭に中高生向けと書きましたが、ボリューム自体は相当あります。序盤もそうですが、各戦闘の趨勢の描写が細かかったり、エピソードが細部まで詳しいぶん情報量が多く、流し読みできないので、読み進むのに時間がかかります。そしてやはり「The Story」同様、事実の羅列が中心となるため人物たちの思想や行動原理については弱く、いわゆる「論じる」箇所もほとんどありません。(その辺がハイティーン向けである所以なんでしょうね)。

逆に、この長さにさえ耐えられれば、ウエッジウッド以上に詳細がつかめます。