物語 オランダの歴史
- 著者: 桜田 美津夫
- 新書: 322ページ
- 出版社: 中央公論新社
- 発行年月: 2017/5/18
読書メモ
「図説 オランダの歴史」に続いて、中公の「物語」シリーズから待望のオランダ史が発売しました! しかも、著者の桜田先生にとっては初の単著です。 見た目と逆で、社会科に例えるなら、「図説」が教科書でこちらの「物語」が資料集のイメージ。
「図説」は1章の入りこそちょっとナナメでお洒落(?)ですが、2章からはローマ時代から淡々と時系列で歴史が語られます。無駄な文章が一切なく、気持ちが良いほどスッキリしていてしかし単調にならず読みやすい。
「物語」は逆にメリハリの連続です。図説と同じような歴史叙述があったかと思えば、映画や展示会や新聞の話、一次資料を引いてきたり、さらには新旧歴史家たちの見解、など実に多角的なアプローチでのエピソードが次々と出てきて、まったく飽きさせません。そのエピソードそのものにも緩急があり、どうみても教科書太字になりそうにない人物(例えば『ブレダの泥炭船』の船長やらグロティウスの小間使いやら)の名前が出てきたかと思えば、レスター伯が「援軍」の一言で片づけられていたりとか。そんな厚みのメリハリに、ほんとはこの辺もっと書きたかったんだろうな~的なもどかしさが透けて見えるようで、「物語」の看板にふさわしい内容になっているかと思います。
ところで、文庫の帯に書かれている「偉大な小国500年の盛衰」。そうです、この本はオランダ(=北部ネーデルランド連邦共和国)の建国前夜から現代までの歴史が書かれています。時代的には古代・中世、地理的には南部(ベルギー)がばっさり切ってあり、思わずRTSゲーム『ヨーロッパ・ユニバーサリスIII』を思い出しました。「ネーデルランド」ではなく、あくまで「オランダ」に軸を据えたものになっています(シリーズ内既刊に「物語 ベルギー史」もあるので、編集側に住み分けの意図もあったのかも)。
なお書中ではドイツ・ナッサウ家の人物たちの名前はドイツ語表記になっているのですが、これもオランダへのこだわり故かもしれませんね。