小説 聖餐城
- 著者: 皆川博子
- 出版社: 光文社
- サイズ: 単行本/文庫
- ページ数: 739p/864p
- 発行年月: 2007年04月/2010年04月
- 定価: 2940円/1300円
読書メモ
大著ながら、1日で一気に読みきりました。歴史小説はかくあるべきと思わせる作品です。
個人的には、歴史小説とファンタジーは全く否なるもの(むしろ真逆)と思っていますが、以前、三十年戦争関連の別の小説を読んだときには、神(祈る「対象」ではなく本体)は登場するわ、死後の世界は出てくるわ、かなり冷めてしまいました。大河ドラマで幽霊が出てくると一気に陳腐になるアレです。この作品では、淡々と歴史事実の上に登場人物が乗っかっている状態が、読んでいて違和感なく心地良いです。もちろん、史実の人物と創作の人物がけっこうな割合で混ざっているので、予備知識は必要です。
主人公のうちひとりの家がユダヤ人一家なので、キリスト教の宗教対立的な要素はかなり薄まっている印象です。そこが日本人でも入りやすく(または、客観的に見やすく)つくられているところでしょうか。プラハが舞台の大部分を占めるので、占星術師や錬金術師などにも言及されますが、「魔法」じみた超自然的な力は出てきません。
オランダに関しても、もちろんほとんど出てきません。が、主人公の所属する傭兵団の隊長兄弟が『武器教練』を入手し、自分の傭兵隊にオランダ式訓練を施し、オランダ軍同様に給与を定期的に支払い、掠奪を認めない軍隊をつくりあげる…というように、間接的にはその精神は、物語全体を通して重要な役割を担っています。
三十年戦争の「匂い」を知るには、ウェッジウッドの『ドイツ三十年戦争』よりもずっと入りやすい本だと思います。