小説 黒いチューリップ

  • 創元推理文庫
  • 著者: アレクサンドル・デュマ /宗左近
  • 出版社: 東京創元社
  • サイズ: 文庫
  • ページ数: 376p
  • 発行年月: 1998年10月
  • 定価: 735円

読書メモ

『三銃士(ダルタニアン物語)』『モンテ・クリスト伯(巌窟王)』で有名な、アレクサンドル・デュマの小説。このウェブサイトの扱う時代より20年くらいあと、フランスとの「オランダ侵略戦争」の時代です。

上記2冊を小学校の頃に読み、初めてこの『黒いチューリップ』を読んだのはローティーンの頃。『三銃士』と比べると華やかな活劇はなくて地味だし、オランダ人ってヘンな名前!…くらいにしか思わなかったのですが、おそらく、管理人がオランダ史研究を始めたいちばん根っこの理由はここらへんにあったのかもしれません。

主人公のコルネリウス青年は、コルネリス・デ・ウィットの名づけ子という設定。その関係で物語の前半にはあっさり投獄されてしまい、物語を通してほとんどが塀の中です。主体的に動かない(動けない)ので、主人公としてはあまり役に立ちません。唯一の主人公要素は、「黒いチューリップ」の球根を開発し、それを3つ所有していた、ということ。読み進めていけば、本当の主人公が誰かはおのずとわかると思います。ちなみに、敵もコソ泥レベルに地味です。残念ながら、三銃士や巌窟王のように強大な権力者に立ち向かう、というわけではありません。

…と書いて、何が面白いんだと思いますが、なんだか面白いんです。決して娯楽、とはいえない面白さですが…。

  • ホラント州法律顧問のヤン・デ・ウィットとその兄コルネリス・デ・ウィット
  • ウィレム三世(フレデリク=ヘンドリクの孫にあたります)

が、実在人物。オランダ史上最も残酷ともいえる、デ・ウィット兄弟の惨殺シーンも描かれています。また、ウィレム三世は22歳なのですが、若者っぽくなくかなり老成してます。寡黙で慎重なところは、いかにもオランイェ=ナッサウ家の人らしい印象です。

「オランダ侵略戦争」 直前の話ですが、この前後のオランダを知るためにも、概説で「英蘭戦争」「オランダ侵略戦争」の知識をざっくりとつけてから読むのがオススメ。そうすると、ラストのウィレムの行動の意味もなるほど、と思えると思います。

1672 Johan en Cornelis de Witt

Unknown (1672) デ・ウィット兄弟 In Wikimedia Commons
下の細長い部分が、虐殺の後に晒される兄弟の様子