オランダ・ベルギー絵画紀行―昔日の巨匠たち

 

  • 著者: フロマンタン (著), 高橋 裕子 (翻訳)
  • 出版社: 岩波書店
  • ページ数: 348/359p
  • 発行年月: 1999年04月(第4刷版)
  • 定価: 各840円

  • 著者: ウジェーヌ フロマンタン (著), 杉本 秀太郎 (翻訳)
  • 出版社: 白水社
  • ページ数: 418p
  • 発行年月: 1992年
  • 定価: 3975円

読書メモ

Peter Paul Rubens 048

ルーベンス「マリー・ド・メディシスの肖像画を受け取るアンリ四世」 In Wikimedia Commons

複数出版社から出ているので両方載せておきました。訳者が違っています。

もともと1876年の著作なので、ロマン主義時代の古典といったところ。もちろん当時の説に拠っているので、現在の研究では違っている部分などには訳注が載っています。管理人が所有しているのは岩波版。訳注はかなり充実しています。(そのせいで2巻本になっている気が…。)

自らが画家でもあるフランス人の著者が、オランダ・ベルギーを旅しながら、見聞きしたオランダ・フランドル絵画について書いていくというスタイルです。本人も冒頭で、当時の一般論と比べても私見が多いと述べています。それでも全体を通して読んでみても、個人の好みの範疇に留まっていると思われるので、斜めに構えて読む必要はありません。

上巻の1/3がルーベンス、下巻の半分近くがレンブラントに割かれています。その他、作者がイチオシしているのが、ライスダールやカイプといった風景画家です。個人的に興味深かったのは、上巻の「オランダ画派の起源と特徴」「オランダ絵画の主題」の部分。

Travellers attacked by brigands

ベルヘム「山賊に攻撃される旅行者たち」 In Wikimedia Commons

あまりオランダ絵画では取り上げられない、騎馬戦闘の絵画についても若干の記述があります。
「オランダの歴史は、この苦難の時代の絵画にまったく、あるいはほとんどまったく痕跡をとどめていないことになる。そして、画家たちはただの一分たりとも、自国の歴史に心を動かさなかったかのように見える。」 (上巻: pp.250-251)

常々感じていたオランダ「黄金時代」の文化と、戦争や内戦などの社会不安との齟齬は、この頃からも指摘されていたんだなあと思います。もっとも、これら騎馬戦闘図についても、どこで誰が戦っている何の戦闘かという説明もないため、空想的で危機感が欠落しているとの指摘もされています。

フロマンタンの生きた19世紀と現在との社会の違い、感じ方の違いも面白い。19世紀当時、マウリッツハイス美術館は既に美術館として公開されていたようですが、その隣のビネンホフには人っ子一人おらず、「騎士の間」には蜘蛛の巣が張っているとか。17世紀当時および現在国政の中心となっているビネンホフも、そのような時期があったんですね。

ほか細かいところでは、肖像画家ミーレフェルトの画風を「やや冷たい感じの肖像」と称しているところ。個人的には、むしろ軍人を描いたものにしては柔弱に寄っているとすら思っていたので、逆に新鮮な見識に思えます。

Gabriël Metsu - Soldier Paying a Visit to a Young Lady - WGA15094 Gerard ter Borch d. J. 007

メツー「訪問」/テル・ボルフ「兵士と若い女」 In Wikimedia Commons

「給料が出たのでまずは売春宿にツケの払いに行く」系の、こちらも管理人が好きなジャンルの絵画も挙げてありました(笑)。これらはどちらもルーブル美術館蔵です。

なお、現代日本を席巻しているフェルメールについては、名前が数度挙がっているのみで、作品についての記述はありません。

Aelbert Cuyp 003

カイプ「ドルトレヒトの港」 In Wikimedia Commons

フロマンタンの時代に「マウリッツ・ファン・ナッサウのスヘーフェニンゲン到着」とされていた絵画。二度例に挙げているので、フロマンタンのお気に入りのひとつと思われます。