グロティウス(Century Books―人と思想)

  • 著者: 柳原正治
  • 出版社: 清水書院 Century books 人と思想
  • サイズ: 全集・双書
  • ページ数: 227p
  • 発行年月: 2000年10月
  • 定価: 893円

読書メモ

デカルトと並ぶ、八十年戦争時代の偉大な哲学者。実は意外に、日本語のグロティウス関係書籍は少ないです。入手もちょっと難しめです。

オランダ生まれでプロテスタントのグロティウスが、フランスに逃れて生涯を過ごさなければならなかったことに反して、フランス生まれでカトリックのデカルトは、自らオランダで暮らすことを選んでいます。いずれも晩年はスウェーデンがらみで命を落としていることも興味深い共通点です。

前半がグロティウスの生涯、後半がグロティウスの著作の解説です。(正直、後半は難しいので、前半しか読んでません。)

グロティウスはオランイェ公フレデリク=ヘンドリクと友人です。1年違いで同じデルフトで生まれており、10歳そこそこのレイデン大学時代から「ご学友」となりました。その後フランス旅行へも同行したり、帆かけ戦車実験にも立ち会ったりと、とくに若年期は相当の関わりがあります。ナッサウ伯マウリッツ、オルデンバルネフェルトの両名とも顔見知り以上の知り合いで、1617年以降のクーデター騒動期には、共和国の歴史でも主要登場人物の役割を演じます。

グロティウス。管理人が中高生のころは「グロチウス」と習った記憶がありますが、現在は「グロティウス」が通称のようです。「国際法の父」として有名ですが、実は生涯を扱った本は少なく、日本語ではここに挙げた2冊くらい。しかもどちらも既に絶版に近い状況なので、新本では入手しづらいです。「グロチュース」「グローチウス」などと書かれると検索にも引っかかりにくいのでけっこうお手上げ。拾いきれていないだけで、実際はもっとあるのかもしれません。

オランイェ派からでもなく、レヘント側からでもなく、一官吏というより一学者であったグロティウスからの視点での共和国史です。冷静とも冷徹ともいえる中立な視点で書いてあり、個人的にはこちらのほうが好みです。グロティウス個人については、「神童」や「天才」という字面とは裏腹に、かなりイタい人物像がうかがえます。弁護士や検察を経験してきたにもかかわらず、いざ自分が裁判にかけられるとなると取り乱したり、ここまでするか?ってほどの自己弁護に終始したり、挙句には親友フレデリク=ヘンドリクの内心を勝手に邪推して逆恨んでみたり。意外な面が多く、楽しく読めました。


~Further Reading~

グロチュースとその時代―生誕400年を記念して

  • 松隈 清 (著)
  • 出版社: 九州大学出版会 (1985/04)
  • 発売日: 1985/04
  • 定価: 2575円

読書メモ

参考としてもう一冊。上記とは違い、グロティウスの生涯を追いながら、そのときどきの著作についても触れていくスタイルです。オーソドックスな書き方ともいえますが、著作そのものに興味のある人には物足りないかもしれません。

サブタイトルにもある「生誕四〇〇年を記念して」とあるように、1985年出版。当時はあまりオランダ史も盛んではなく、著者も歴史学専門ではないため、人名・役職名などの表記のしかたは現在と相当違います。(英語ベースと断り書きがありますがそれでも微妙…)。著者が400年記念式典に招かれたとのことで、その体験記も載っており、ゆかりの地を訪ねたい人にもひとつの参考になるかもしれません。

内容は、エピソードひとつひとつがこちらのほうがやや細かいでしょうか。グロティウス贔屓、またはグロティウス個人の視点での記述が多い印象です。ので、これら2冊のおなじ部分を比べながら読んでいくのがいちばん理解が早いと思います。