ペーテル・パウル・ルーベンス―絵画と政治の間で
- 著者: 中村 俊春
- 出版社: 三元社
- サイズ: 単行本
- ページ数: 364p
- 発行年月: 2006年08月
読書メモ
画家として有名なルーベンスですが、南ネーデルランド執政イザベラの個人的な外交官でもありました。管理人は、このサイトの主旨からも、絵画そのものではなくルーベンスの外交官としての働きに興味を持っています。そのため、あまり画家としてのルーベンスやその作品の内容には、このサイト内では触れていません。
サブタイトル「絵画と政治の間で」の看板に偽り無し。ルーベンスの生きた時代と場所は複雑な情勢下にありますが、時代の空気感についても丁寧に説明されていると思います。ルーベンスの伝記や外交活動よりも作品そのものの分析に主題をおくものである、と著者本人も再三書いていますが、それでも充分以上にルーベンスの外交官としての生涯に触れることができます。
膨大な注釈から判断するに、これも博論かと思っていたらやはりそうでした。あとがきに「なんだこんなに気楽に読めるものでも博士論文なのか」と思ってもらえたら望むところ、と筆者が書いているとおり、構えて読まなくても楽しめるものです。
ルーベンスの場合は衰退の一途を辿るアントウェルペンが舞台なので、「バロック」のイメージから感じられる華やかさだけではなく、裏の部分にも目が向けられています。この本も最終章は、ルーベンスの外交活動に対する挫折と諦念で締めくくられています。そういった手法に非常に納得させられる一冊でもありました。
~Further Reading~
ルーベンス (1628-30) 自画像 In Wikimedia Commons
ここには信頼のおける4冊を挙げました。リュベンス(岩波世界の美術)
- 著者: クリスティン・ローゼ・ベルキン/高橋裕子(訳)
- 出版社: 岩波書店(岩波世界の美術)
- サイズ: 全集・双書
- ページ数: 351p
- 発行年月: 2003年06月
読書メモ
上記「絵画と政治の間で」よりも、より絵画論ではなくルーベンス本人の伝記に焦点を当てて書かれたもの。「絵画と政治の間で」もこの本を参照にしている部分が多いのではないでしょうか。 伝記形式の時系列なので、ルーベンス個人の出来事と、その頃描いた絵画の解説が同時多発的に書かれています。巻末に用語解説一覧や登場人物解説一覧があるのも嬉しい。図版もカラーでかなりの量載っています。さすが岩波。もっとも、その分(版権などの問題でしょう…)このシリーズはどれも高額です。
若干、本当に若干残念なのが、歴史学の目から見ると、美術史には叙情的といえる部分があること。これは方法論が違うので仕方のないところですね。気にならない人には気にならない部分かとは思います。
ルーベンス回想
- 著者: ヤーコプ・ブルクハルト (著)/新井 靖一 (翻訳)
- 出版社: 筑摩書房
- サイズ: ちくま学芸文庫
- ページ数: 444p
- 発行年月: 2012年03月
読書メモ
原著は1898年刊。半世紀以上前の訳本がありますが、こちらは2012年新訳版です。こちらは完全にルーベンスの「絵画」論。生い立ちや外交活動については触れる程度で、ほとんどが具体的な作品を挙げての解説にページが割かれています。歴史画、肖像画、といったようにジャンル別に章立てが分かれているので、ここに挙げた中では最も体系的です。訳者解説にもあるように、著者ブルクハルトの二十代からのライフワークの集大成とのこと。
ルーベンスの弟子についても多少書かれていますが、ヤーコプ・ヨルダーンスの「フレデリク=ヘンドリクの勝利」(ハウス・テン・ボス宮の壁画)が取り上げられていました。めずらしい…。 文庫としては高額な部類に入りますが、カラー図版は口絵に10点程度載っているだけで、本文中の図版はモノクロです。
リューベンス(新潮美術文庫)
- 著者: 坂本 満/日本アート・センター(編集)
- 出版社: 新潮社
- サイズ: 新潮美術文庫
- ページ数: 93p
- 発行年月: 1976年01月