オラニエ公ウィレム―オランダ独立の父

  • 著者: シシリー・ヴェロニカ・ウェッジウッド /瀬原義生
  • 出版社: 文理閣
  • サイズ: 単行本
  • ページ数: 391p
  • 発行年月: 2008年03月
  • 定価: 4725円

読書メモ

難解な英語といわれるウェッジウッド。日本語で読めるのは本当にありがたいです。(それにしても人ごとのようでアレですが、オランダ史関係の伝記なんて日本で需要あるのだろうか…)。

訳者も著者の「感情移入が強い」と書いているように、小説ばりの書き口。原書は1944年のものですが、未だ多分にロマン主義的といえるでしょうか。確かに、人物については好き嫌いで書かれている印象なので、必要以上に個人の善悪が強調されているきらいはあります。が、沈黙公について知りたいことは、だいたいこれ1冊で事足りると思われます。

それにしても見ていて可哀相なくらい、ウィレムの前にはいつも難問が山積です。ページ数も多いですが、読みきるのにけっこう精神的なパワーも要ります。

とくに1570年代後半の政治的攻防、1580年代のアンジュー公問題で、ウィレムは敵を増やしていってしまいます。何人か入れ代わり立ち代わり出てくる政敵については、各人あまり掘り下げて書かれていないので、誰がどういった人物か、あらかじめ調べたうえで読んでいったほうがわかりやすいと思います。パルマ公はウィレムとほとんど直接対面で関わっていないためか、かなりあっさりめに書かれているのがちょと物足りないかも。

訳者によると、カナ表記等技術的なことに関しては、管理人もスタンダードとしている『身分制国家とネーデルランドの反乱』の著者から直接助言を受けたとのこと。また、巻末には訳者の「補遺」としてウィレム暗殺後の八十年戦争史についても概観してあり、「主人公の死=最終回」な大河ドラマとして終わっていないのも、この日本語版のうれしいところです。

備忘メモ。 p.32 「パリのウィレム」ではウィレムの再婚相手の候補者がメアリ・ステュアートのように書いてありますが、これはメアリ違い。ソワソンおよびアンギャン伯ジャン(ヴァンドーム公シャルルの息子)の未亡人マリー・ド・デストゥトヴィルのことです。